FintechをやりたいならSIerではなくユーザー企業である金融機関に就職する

Fintechという言葉が流行しています。

そもそも定義さえあいまいであり言葉だけが一人歩きしている印象が拭えません。

しかも国までFintechを押しています。Fintechとは何かという明確な定義さえないのにもかかわらずです。

こういうのをみると、結局何も産まずに終わった(らしい)第五世代コンピュータプロジェクトを彷彿とさせます。

私が生まれる前の話なので第5世代コンピュータ=大失敗という後日談を聞いてるだけですが、こういうのは失敗を再びしないために役立つからこそ意味があります。それを生かさないとしたら単に失敗しただけのプロジェクトという歴史をお勉強しただけで終わってしまいます。

 

Fintechの定義をせずともFintechの守備範囲を決定することはできます。

なぜなら新しい用語がでてきたということは今まで手薄だった分野があるからです。

 

まず厳しいことを申し上げると総研といったSIerではFintechに携わることはできません。

「私共はFintechをやっています」というアピールはたいてい内実が伴っていません。Fintechがそもそもどういうのかわかっていないのに、一応Fintechと言っておけば多くの人が耳を傾けてくれて案件が取りやすいだろう、という営業上の狙いがあるのは見透かされています。

 

銀行のオンラインシステムは70年代にはすでに存在していました。

そのときから金融機関のシステム担当者がSIerに金融システムを発注するという業務はあったわけです。

そしてそのときから今まで金融システムというのはSIerに頼りっきりでした。ITに無知なことから足元をみられて、無用な機能を搭載されて無駄に費用がかかってしまったり、結局開発できずに大きな損失を被った金融機関も多いのです。

 

実はFintechをやるのは金融機関の従業員です。SIerではありません。

今まで金融機関というのはシステム部でさえ自らプログラムを書いたりすることはなく、予算の見積もり、要求定義といった文書作成が仕事だったわけです。

極めて少数ですが、金融機関には自らプログラムを書いてデリバティブの評価モデルを作ったり、プロップトレーディングのプログラムを書いている人たちがいます。

要はこういった人員が今までは決定的に不足していたため、それを増強していく方向の向かう先にFintechがあるのです。

つまり金融機関のニーズで金融機関自らプログラムを書きシステムを作る、または金融機関自らプログラミング前段までの設計を済ませてしまって、プログラミングだけを外注するといったことです。

今まではSIerに握られていたシステム構築を、情報工学やプログラミングに詳しい人材を強化して金融機関主導で開発していくのがFintechの本質です。

だからSIerがFintechをやるというのは元からおかしいわけです。

今まで金融システムはSIerが作ってきたわけですから、それをFintechと呼ぶなら「金融システムは70年代からありましたよね。ではFintechってそれとは何が違うの?」ということになってしまいます。

Fintechの本質はユーザー企業である金融機関主導でITを活用するというところにあります。

もしあなたが漠然と「Fintechをやりたい」と思っているなら、就職するべきは総研などのSIerではなく金融機関になります。

最初はITと全然関係ないことを教えられるでしょう。それもそのはず、そこは金融機関だからです。プログラミングやシステム開発が「目的」ではありません。それらは金融機関にとっては「手段」にしか過ぎません。まずは目的である金融に詳しくならないと作るにも作れません。

情報工学やプログラミングというのは応用を実現するための手段にすぎないのです。ITを何に応用するかという応用を知っていることが重要。応用とは何かというと金融機関なら金融、医療機関なら医療です。

だからFintechをやるのには金融機関で金融について鍛えてもらって、そしてITに手を伸ばしていくということが重要になります。

ですがITというのは習得に時間がかかるのも事実。だからこそ、理系で情報科学や情報工学をやって来たが金融に興味がある、という人をFintech要員として採用するわけです。

これは外資系投資銀行のような外資系金融なら昔からやってきたことです。日本の金融機関はどちらかというとそういった面が手薄だったのでFintechというバズワードで右往左往していると言えます。

今は誰でもプログラミングができるようになってきています。ですがSIerのSEやプログラマには弱点があり、「一体何を作ればお金儲けに繋がるのだろうか?」という応用部分が無いのです。

「こういうのを作って欲しい。これができればお金になる。」と教えてもらえればSEやプログラマはテキパキと具体的成果物を作ることができます。

ですがその「何を作ったらいいのか」という部分がないことには話が始まらないわけです。

Fintechとは金融機関でその「何をつくれば収益を生むか」を徹底的に習得し、それをITと結びつけて設計までやり具体的成果物まで作るというのが本質です。

金融というのは本で勉強できるほど浅い分野ではありません。いくらSIerで金融システムをずっとやっていても、新卒の頃からずっと金融機関で働いて金融を専門としている人には勝てません。

必要なことは学生の頃にITは一通りやっておき金融に進む。外資系投資銀行が理系を重点的に採用してきたことがFintechという言葉によってメジャーになりつつあるというだけなのです。

だからFintechは何も新しくありません。金融機関内部にいたITに詳しい人たちが注目され、それが増強されるという点だけだと言えます。