2017年4月に第1回目の情報処理安全確保支援士試験(以下、試験士試験)が実施されました。
前身の情報セキュリティスペシャリスト試験よりも申込者数が減ったことはこちらの記事に記載した通りなのですが、試験結果を見ると合格率は情セキュから大きく増えても減ってもいません。
難易度面からは情報セキュをほぼ完全に踏襲した試験となったと言えます。つまり単なる名称変更の焼き直しであり、合格者数が飽和してきたら試験名だけ変えて中身はそのままというIPAのやり方は今回も改善されることはありませんでした。
難易度が同じなのですから、既に情セキュに合格している人は積極的に受験する必要はないでしょう。ただし、情セキュの経過措置が終わってしまうと支援士登録ができなくなってしまうので、登録を考えている人は経過措置期間に注意しておくべきです。
第1回の支援士試験結果で興味深かったのは業界別社会人の合格率です。
支援士試験で主に想定しているいわゆるITベンダー勤務者の合格率が15%に留まっており、学生の合格率21%を大幅に下回っているのです。
また官公庁・通信業・教育機関の合格率25%と比較しても、ITベンダー勤務社の合格率が大幅に下回る結果となっています。
本サイトでは以前から「優秀な理系情報系学生はIT業界に行かない」と指摘していますが、それが支援士試験の結果からも裏付けられている格好です。
これは理系のみならず文系にも妥当します。
文系や慶應義塾SFCのように文系だか理系だか中途半端な学部に進学してしまったせいで、商社・インフラ・官公庁などへの就活に失敗し就活浪人はできないから仕方なくSEになった人達に支えられているのが日本の~総研や~データに代表されるIT業界だからです。
ベンダーSEの合格率がまさかの平均割れ
ソフトウェア開発を受注したり、情報セキュリティ業務を受注して請負としてやっているは組織内SEなどとは区別してITベンダーのSEと区分することができます。ソフトウェア面においてITベンダーは情報技術産業の主役だと言えます。
ITベンダーで働くSEの能力をいかに高めるかが「情報処理の促進に関する法律」の立法趣旨であり、またその法律に基づいて設置されているIPAの使命だと言えます。その一環として情報処理技術者試験や支援士試験が行われています。
IPAが発表した試験結果の統計の一部を以下転載しますが、「ソフトウェア業」、「情報処理・提供サービス業」の2つがITベンダーに相当すると言えるでしょう。
ソフトウェア開発を受注したり情報セキュリティ業務を請け負っている業者のことです。
そして結果をみるとわかる通り、「ソフトウェア業」の支援士試験合格率15.0%は社会人平均の16.2%を下回る結果となりました。
さらに「情報処理・提供サービス業」14.8%でありこれもまた平均の16.2%を下回っています。
平均が16.2%なので、合格率15%は統計的有意に「低い」とは言えず「たまたまだ」という見解もあるかもしれませんが、ITベンダーの受験者数(サンプル数)は5257名+4139名と圧倒的多数を占めていて十分なサンプル数があり、この合格率の低さを「たまたま」とするのは苦しいと言えます。
学生の合格率21%に大敗したITベンダーSE合格率15%
情報処理技術者試験は学生で受験する人も多いわけですが、その中でも基本情報・応用情報・各種スペシャリスト試験については理系かつ情報系の学生から人気です。ITパスポートは逆に理系情報系に見向きされず文系が大好きな試験区分です。
つまり基本情報以上を受ける学生は、ほとんどが理系で情報科学・情報工学を専攻している学生だということです。
文系受験者は就職してSEになるなど社会人になった後であり、文系が学生時代から基本情報以上を受けることはほとんどありません。
そして本サイトでは何度も掲載していますが、理系のうち優秀な層ほどITベンダーに就職しません。
IBM基礎研究所に入ったり、日本電信電話に入ったり、パーマネント職の専任講師として大学に残ったり、国家総合職工学区分で技官になったりします。
つまり「優秀な学生はSEにならない」が今回の支援士試験合格率でも裏付けられている形です。
もし優秀な層がITベンダーに行っているならここまでITベンダー勤務者の合格率は下がりません。
後述しますが、通信業・官公庁・教育(教員・研究所)勤務者の合格率はこの学生合格率21%を超える25%という結果となっています。
つまり理系の情報系で優秀な層はこれらの企業・官公庁なりに就職しておりこの層の合格率が高く、逆に理系の情報系でも落ちこぼれた層はSEになってしまうことで、たとえ理系情報系出身でもこのような落ちこぼれ層がITベンダーSEの合格率を下げているわけです。
このように見ていくと、支援士試験でITベンダーSEの合格率が低い要因は2つあります。
1つは理系の情報系のうち優秀な層はSEにならないということです。
理系の情報系には出来が悪い学生もかなりの数おり、特に女学生は非常に出来が悪く、そういった人は官公庁やNTTやIBMなどの研究所に行かず(というか行けず)SEになって合格率を押し下げているのが現実です。
以前はIPAは男女別で統計資料を出していてくれたのですが、女の合格率が際立って低いのが一目瞭然であり、その結果に不服などこかのフェミニストが文句を言ったようで男女合算のデータしか出ないようになってしまいました。
また第2の理由として、日本のITベンダーの主戦力は文系だということです。
ITベンダーでは「情報技術やプログラミングなんか一切知らない文系学生でも歓迎です」とザル採用をしています。そうしないと質よりも絶対数が集まらないからです。
文系出身者でも入ることができる上に、文系SEがむしろ主戦力であることさらに合格率を下げる要因になっています。
圧倒的に強い官公庁職員・学校教職員・NTTなどの通信業者
高い合格率を叩き出した業種は通信業25.5%、教育(学校、研究機関)25.0%、官公庁23.2%です。
通信業は運輸業とも合計されていますが、ほとんどが日本電信電話やその子会社(NTT東西やドコモ)だと考えられます。
運輸業もJR東海などの高い情報セキュリティ技術が要求される企業だと考えれば合格率が高いのもわかります。しかもJR東海の技術系は東大・京大・大阪大・名古屋大の工学系研究科からしか採用しないほど採用において人材を絞っているのでこんな支援士試験は楽勝でしょう。
また教育(学校、研究機関)はあまりにも範囲が広すぎますが、高校で情報分野を教える教員や大学の職員だと。大学の教員が取るとはあまり考えられません。
さらに官公庁は最も事務ミスに厳しい業種ですし、国家総合職どころか国家一般職で任用された人も民間に比べたら相当優秀です。都道府県も上級職ならこの程度の試験は少し勉強すれば簡単に合格できます。財務省主計局も各都道府県財務担当も情報セキュリティ予算の配分には理解があるためこの合格率の高さは当然とも言えるでしょう。
また逆に合格率が低いのが農林水産業と医療福祉ですが、受験者数がそれぞれ10人、56人しかおらずサンプル数があまりにも少ないためこの合格率は参考にならないでしょう。
実際に理系の情報系でしっかり大学大学院時代に勉強してきた人はこのような業界に進みます。せっかく勉強してきたんだからSEになんかになったらもったいないと大学教員でさえ授業で学生に言っているくらいですし、それならしっかりした就職をしようということで日本電信電話などの手堅いところに入るわけです。
一方で大学に入った途端、授業や卒論をサボり水商売のバイトに明け暮れていた人ほど就活で妥協しSEになっていくのを見てきました。日本電信電話は大学大学院時代の研究テーマが直結していることが重要なので当然入れないでしょうし、官公庁は公務員試験があるので大学に入ってから何もしてこなかった人では無理です。よってバイトしかしてなくてもITベンダーの採用説明会に何回か出席した実績を作って、あとは簡単に3回の面接だけで入れるITベンダーSEになるわけです。
やはり日本電信電話などの難関と言われる民間企業や官公庁に入った人は、就活に失敗して~総研や~データのようなSEで甘んじた人より優秀も試験結果をみても優秀だとわかります。