「情報処理の促進に関する法律施行規則」という経済産業省の省令が2016年10月21日(金)に施行され、情報処理安全確保支援士制度が始まりました。
始まったものの、まだ法律や政令といったお硬いソースしか情報源がない状況であり、ほとんど試験制度の周知徹底ができていないと言えます。
私も詳しく調べている上で確かな解説が全然出てこないので、結局すべてのおおもとである法律と省令という原典を読むことになりました。
そこで判明した重要なことを解説しておきます。
情報セキュリティスペシャリストなどの合格者が情報処理安全確保支援士に登録できる経過措置は2018年10月20日まで 申請締め切り日は2018年8月19日
すでに情報セキュリティスペシャリストを持っている人はかなりの数いるでしょう。私もそうですが、この人達は情報処理安全確保支援試験を受けなくとも、合格したとみなされます。
昔の試験であるテクニカルエンジニア(情報セキュリティ)合格者も対象です。
ただし条件があり、それは2018年10月20日までに情報処理安全確保支援士として登録をするということです。登録せずに2018年10月20日を過ぎてしまうと、情報処理安全確保支援士試験を受け直す必要があります。
一応経産省が発表した概略図を掲載しておきます。
ですがこの説明はかなり端折られており、不十分です。以下法令を引用して詳述します。
根拠条文は省令の附則です。
(情報処理安全確保支援士試験合格の特例)第四条旧規則の規定による情報セキュリティスペシャリスト試験又は情報処理技術者試験規則等の一部を改正する省令(平成十九年経済産業省令第七十九号)による改正前の情報処理技術者試験規則の規定によるテクニカルエンジニア(情報セキュリティ)試験に合格した者は、支援士試験に合格した者(ただし、この省令の施行の日から起算して二年を経過するまでの間に、法第十五条の登録を受ける場合に限る。)とみなす。
このように特例措置を省令の附則に用意することで、過去の試験合格者は新しい支援士試験を受けなくても登録できるようになっているのです。
ですがこの但し書きが重要で、「この省令の施行の日から起算して二年を経過するまでの間に」登録したら支援士試験に合格したと「みなす」と書かれています。
この省令の施行の日というのは、情報処理安全確保支援士制度が始まった2016年10月21日です。
そしてこれがまた法令用語として特殊なのですが、2年を経過「する」までとなっている場合は、ちょうど2年後の2018年10月21日は含みません。前日の2018年10月20日までです。
よって情セキュやテクニカルエンジニア(情報セキュリティ)に合格している人は、2018年10月20日までに登録すれば支援士試験を受けなくていいということです。
ただし登録は無料ではありません。登録手数料10,700円が必要です。無料にすると登録と抹消を短期間に繰り返す人が必ずでてきたり、活用する予定がないのにとりあえず登録の人が多数でてきて維持コストが高くなり、予算(税や国債で調達したお金)のムダになるので手数料必須は仕方ないでしょう。
また登録免許税9,000円も必要です。なぜ登録そのものに対して税を取られるのかと思うかもしれませんが、これは「免許などの登録によって利益を得ている人が納める税」です。つまり情報処理安全確保支援士として登録すると、それによって仕事ができるなどその人にとっては金銭的にしろ、金銭的でないにしろ「利益」が得られます。登録によって「利益」を得ているのだから、その利益に対して課税しますという考えで導入されている税です。
情報セキュリティスペシャリストの合格者、午前I合格者は合格発表日(公示日)の2年以内まで科目免除できる
そして科目免除についても情報セキュリティスペシャリスト試験合格者、午前I合格者には経過措置があります。
まず新しい制度がどうなったか見てみます。
省令第3条の三号で、試験科目免除について書かれている部分です。
三第三十七条第一項の規定によるITストラテジスト試験、システムアーキテクト試験、プロジェクトマネージャ試験、ネットワークスペシャリスト試験、データベーススペシャリスト試験、エンベデッドシステムスペシャリスト試験、ITサービスマネージャ試験及びシステム監査技術者試験(以下「高度試験」という。)並びに応用情報技術者試験のいずれか一の試験に合格した者(当該試験に係る第四十一条により読み替えられた第八条第二項の公示が行われた日から二年以内に支援士試験を受ける場合に限る。)情報処理システムに係る業務に関する共通的知識について行う試験
随分長ったらしいですが、注目すべき点は「情報セキュリティスペシャリスト」という名称がどこにもないことです。つまりすでに情報セキュリティスペシャリストが廃止されたあとの省令なので、情報セキュリティスペシャリストはすでに存在しないことになっているわけです。
でもこうなると不利益を被る人がいます。
「2016年10月の情報セキュリティスペシャリスト試験に合格したから、午前I免除を使って2017年4月にデータベーススペシャリストを受けようと思っていた」とか、
「2016年10月の情報セキュリティスペシャリストは不合格だったけど、午前Iの基準点は超えてたから2017年4月からの情報処理安全確保支援士試験は午前I免除したい」
という人達です。
せっかく情報セキュリティスペシャリスト試験である程度結果をだしたのに、試験自体がなかったことにされて科目免除対象外になるのは不利益です。
だからこれには経過措置があります。
同じく省令の附則です。
(情報処理安全確保支援士試験科目免除の経過措置)第三条この省令による改正後の情報処理の促進に関する法律施行規則(以下「新規則」という。)第三条第三号及び第四号の規定の適用については、この省令の施行の日から平成三十一年三月三十一日までの間、これらの規定中「第八条第二項」とあるのは「第八条第二項若しくは旧規則第六条第二項」と、第三条第三号中「並びに応用情報技術者試験」とあるのは「、応用情報技術者試験並びにこの省令による改正前の情報処理技術者試験規則(以下「旧規則」という。)の規定による情報セキュリティスペシャリスト試験」と、同条第四号中「高度試験の」とあるのは「高度試験及び旧規則の規定による情報セキュリティスペシャリスト試験の」とする
これまた長ったらしく、しかし曖昧性のない正確な日本語で書かれていますが、要はかつて存在した情報セキュリティスペシャリスト試験の合格者や午前Iをクリアした人は、合格発表日から2年以内は午前Iの科目免除ができますよというものです。
正しくは合格発表日からではなくて、合格者の受験番号が官報に公示された日なのですが、合格発表日と公示日が一緒になるように試験が運営されているので同じ日と考えていいでしょう。
そしてここでまた「2年以内」という日付の文言が出てきますが、これは丁度2年後の日は含みません。
例えば2016年12月15日に合格発表があった場合、その合格を使って科目免除ができる期間は2018年12月14日までです。
この点はいままでと同じ運用です。既に廃止された情セキュ合格者でも合格から2年間は午前I免除に使えるということです。
注意すべき点は、先程の「情報処理安全確保支援士に登録できるまでの期日が2年間」とは起算日が全く違うということです。
情報処理安全確保支援士に登録できるのは、省令が施行されて支援士制度が始まった2016年10月21日から2年以内です。たとえ情報セキュリティスペシャリストに合格したのが2009年だろうが問題なく登録できます。
逆に、「最後の情報セキュリティスペシャリスト試験で2016年12月15日に合格したから2018年12月14日までに支援士に登録できるだろう」というのは間違いです。
合格したのがいつだろうと、支援士制度が開始されたときから2年の2018年10月20日までが従来試験合格者の支援士登録の期限なので、科目免除の合格発表日から2年間と混同しないようにする必要があります。
情報処理安全確保支援士試験は法令上も特別扱い
情報処理安全確保支援士制度が特殊なのは、従来からある情報処理技術者試験とは別の枠組みで制度設計されていることです。
法律でも省令でも明確に章立てからして別に分離されています。
例えば先程の省令をみてみても、
情報処理の促進に関する法律施行規則目次第一章情報処理安全確保支援士第二章情報処理技術者試験第三章独立行政法人情報処理推進機構の業務
このように第一章が支援士で、第二章が従来からある情報処理技術者試験というように別個のものとして設置されています。
以下の画像はIPAのウェブサイトですが、「情報処理技術者試験・情報処理安全確保支援士試験」と並列して表記されているのがわかります。
情報処理安全確保支援士は登録という今までにない業務が加わったため、従来の検定試験と同じ枠組みで扱うのにそぐわなかったのでしょう。