SIer・ベンダーSEの情報処理技術者試験の合格率が低い理由

以前の記事で、情報処理技術者試験の合格発表時の統計において、合格率を業界ごとにみると官公庁・金融・メーカーなどに勤務している人の合格率が高く、一方で~総研や~データなどのITベンダー勤務者の合格率ほど低くなっているというのを記載しました。

それは私が学生時代と社会人になってから感じていることを裏付けているものでした。

その理由については散りばめて本サイトに書いていますが、今回その本質をえぐりだし細部まで切り込んで書いてみたいと思います。

特にこれは就活前の学生の方にこそしっかり直視して欲しいものです。

受験させられているとやる気がでない

多くのSIerでは情報処理技術者試験を受けることが事実上強制されています。文系から某生命保険会社傘下SIerのSEになった女性が「そろそろ受からないと立場的にやばい」と言っていたこともあります。

また国内にはいくつか”~総研”というベンダーがありますが、そこでも情報処理技術者試験の受験は半ば強制されており、以前までは強制受験だったところもあるようです。

職場が受験料を負担するのは大企業なら当然ですが、強制的に受験させているのなら休日勤務手当を出せという強硬意見もあるようです。

せっかく土日が休みなのに前日の土曜日は明日の試験のための勉強。そして日曜日は朝から夕方まで拘束。しかも試験内容は普段仕事で見ている分野。翌日月曜日はまた仕事。勤務扱いして欲しいという意見もわからなくもありません。

一方で私を含めて、修士課程までの6年間はずっと理系の情報系だったけど就職先はITと全く無関係のところに就職したという人にとっては、好き好みで情報処理技術者試験を受けているのです。誰にも強制されているわけではありません。

単に「学生のころ情報工学をそれなりにやってきたし、久々に腕をなまらせないためにも受けてみるか」という休暇的な意味合いで受験しています。

普段の業務を思い出してしまい身が入らない

私がSEの人と話していて驚いたのは土日に仕事の話をしたがらないことです。これは学生の頃から感じていました。私は情報系の学生であり、就活の参考として既に社会人として働いている人に質問をしまくることを常日頃からしていましたが、SEの人はそういうことを避ける傾向にありました。土日の趣味というのは、つまり仕事から逃げるためにやっているものでありそこに仕事の話を持ちだして欲しくなかったんだと思います。

それは社会人になってからも同じでした。同期で総研に入った人などは基本的にプライベートで仕事の話をしたがりません。逆に私は仕事の話をいくらでもするタイプです。

そしてその違いは情報処理技術者試験にも現れます。

情報処理技術者試験の特に高度試験の午後II問題は普段SEが行っている業務が中心です。

大学入試問題だったら「現代文で俺の大好きな哲学書からまるまる出題された」というのは大喜びするレベルです。実際それで旧帝大に合格した人を知っています。

ですがSEにとって普段の業務内容が出題されるということはマイナス要因のようです。なぜなら普段の仕事が嫌で嫌で仕方なく、体調不良を理由に仕事を休みたいくらいに滅入っている人はIT業務から離れたくて仕方ないからです。そんな中でせっかくの休日の日曜日になぜ普段の仕事のことを思い出さなければならないのかという感じなのでしょう。実際にそれが嫌で、職場の強制じゃなくなってから情報処理技術者試験を受けていない人を知っています。

優秀な情報系の学生はSEにならない

これは本サイトで私が何回か書いていることですが、優秀な情報系の学生ほどSEになりません。本当に優秀な人は大学に残って専任講師という准教授の卵へとなっていきます。その次点の人は官公庁や投資銀行やマスコミやインフラなどに就職していきます。SEはその次の次くらいなのです。

修士まで情報工学をやっていた旧帝大出身の人で投資銀行に入った人が、「~総研でSEになった同期は全然優秀ではない。ただ行動力はあった」と言っていました。

行動力というのは学生の頃は聞こえはいいですが、社会人になってからの行動力というのは「理不尽なトラブル対応も嫌嫌ながらでもしっかり逃げずにこなすこと」を指します。

SEというのは頭の優秀さよりも、真夜中に電話があっても起きてしっかり対応すること、休日出勤でも、ゴールデンウィークでもシルバーウィークでも大晦日+三が日でもしっかり言う通りに逃げずにこなせるなら務まる職業なのです。

彼らは好きでSEになっているわけではない

文系で就活に失敗して嫌嫌SEをやっている人がいるのは学生でも知ってる人は多いです。

一方で、理系で情報科学や情報工学をやってきた人がSEになってるのを見ると、「あの人達は学生の頃からやってきた好きなことを仕事にしたんだ」と判断する学生も居るでしょう。

でもそれは大きな勘違いです。彼ら彼女たちは嫌嫌働いています。

「早く帰りたい」「なんで外が真っ暗な時間帯に電話で起こされないといけないのか」「働きたくない」「辞めたい」「携帯に電話が来たらいつでもすぐ出る義務があるなんて、24時間365日働かされてるのと同じだ」という愚痴を常日頃から発しています。

学生の人はこういった現実を直視して欲しいと思います。SEになった同期はこんなのを普通に話してくれます。でももちろん、このことは就活生には話していないわけです。「就活生を騙してるようで心が痛むこともある」と胸中を吐露している人もいます。

本当はSEなんてなりたくなかった系

結局のところキャリアの選択が間違っていないかという根本的なところに行き着きます。

本当はマスコミに入りたかった、総合商社に入りたかった、投資銀行に入りたかった、官公庁・区役所に入りたかった、経営戦略コンサルタントになりたかった、インフラに入りたかった、司法試験に受かって弁護士・判事・検事になりたかった、そこまでいかなくても司法書士くらいにはなりたかったなどいろいろあるでしょう。

文学部で哲学や音楽(学)など就職難の学科だったならまだしも、せっかく早慶などそれなりの大学で法律や経済を勉強していたのにもかかわらず、就活に失敗してしまい就活浪人するくらいなら内定が出たSEで・・・といった人は実際に多いのです。

でもそういった自分の本望に反したキャリアはいずれ限界が来ます。SEであることにプライドを持って働くことができていないようですし、もしSEであることにプライドを持って働いていたのなら、日本のソフトウェア産業は優秀だと海外から言われ、もっとITベンダーは活気に溢れており情報処理技術者試験の出席率や雰囲気も改善しているでしょう。

結局のところ、「IT(情報技術)分野が好きで働いていますか?」「他にやりたい分野があったけど難関資格が取れなかったり就活で失敗したから仕方なくやっているのではありませんか?」ということに尽きます。やりたくないことをやって働いている人には魅力が感じられないのは公然の事実です。

情報処理技術者試験の合格率の問題というのは、雇用のミスマッチという国も都道府県も頭を抱える非常に根深い問題と密接に繋がっています。